あくいの孫

25歳でまだ大学生やってる人間です

夢から、のろのろと

起きた。悪夢を見た気がする。

どんな悪夢かは覚えていない。でも悪夢を見ていたことだけは覚えている。
覚えていないくせにまだ心は悪夢から覚めていない感じだ。
とりあえず枕元に置いてあるはずのスマホを探る。
3秒探って見当たらない時はたいていベッドから落ちているので、身体を起こしてあたりを見回す。
やはりだ。
起こした身体をまたベッドにうずめながら手を伸ばす、拾う、そしていじる。

 

書くことから離れてしばらく経つ。習慣にしようとしていた日記を書くのも、好きなエッセイストのラジオを聴くのも、どうでもいい映画を見ることさえ、吐き気がしている。
書きたいはずだったものを書きあげられなかった。何を書いていいかわからなくなった。書けると思っていた。書くことが生きがいだと思っていた。

その書くことが無理になった。

自分が逃げたと、書けないと思った瞬間、PCに向かって文字を打ちながら、吐いた。自分の書いた文章が、自分にそのまま聞いてくる。

「つまんない文章って、思うよな?」

 

気づいてから、書けない自分を呪った。
いつまでも書いて生きていきたいと思っていたから。

でも死んでない。むしろ、死んでたら生まれ変われるのだからまだましなはずだ。
人を呪わば穴二つと言う。
なら自分を呪ったら、自分に二つ穴が開くのだと思っていた。
結果はそんなことではなく、マイナス×マイナスがプラスになるように、死んでほしいと呪った結果、死ねない呪いとなって返ってきた。
死ねない呪いにかかった私は、呪いの藁人形のごと、何もできず縛り付けられていた。

 

死ねない呪いにかかって、一か月が経とうと言うある日、唐突に友達が尋ねてきた。
どうした、何をしている。書かねばならないものがあるのだろう、と。
尻を蹴ってきた。目の前で、書くことから逃げないよう見ていてくれた。書かせてくれた。
明日、大学の先生に会いに行こう。今の状況を先生に話そう。絶対来いよ。
そう言って、おれに簡単な文章を完成させてくれた彼は、帰っていった。

翌日、家まで迎えに来てくれた友達と、大学のゼミの先生に会いに行った。
何も書けません。書くのがきついです。殺してください。

もうあなたは死んでるでしょう。あなたから書くことを取ったら死ぬのだから。

何を言ってるんだこの人は、おれは死ねていないんだ、だからあなたに殺してもらいに来たのに。
そう思いながら、涙が止まらなかった。

 

帰って、書いた。書けることを書けるだけ。もう、吐きそうにはなかった。
あんなことを言いながら、先生はやっぱり、私を殺してくれたのではないか。
呪った私と呪われた私を、穴二つまとめて殺してくれたのだ。

 

翌朝起きたとき、悪夢から覚めていた。