帰りが遅い。
端的に言って、残業が最近増えてきた。というのも任される仕事が増え、同時に間に合わない仕事が増えてきた。それは慣れなさから来る心理的負担を伴ってもくる。
そんな状態に集中力などあるはずもなく、整然とした業務ルーティンは崩壊して当然だ。よって遅くなる。
本当に疲れている、とはこういうことを言うのかと思うほど、何もできなくなる。『花束みたいな恋をした』の麦くんが、床に寝転がって、焦点のあってなさそうな目でパズドラをやっていたことを思い出す。
何もできない、ということを感じる。身体は頭に半端な重たさを加えただけで、何か全力で訴えかけてくるわけでもない。ただただ半端に重い。
何もできない、となると当然家に帰ってからの自炊など辿り着くわけもなく、弁当を買いに行ったり外食をしたりするわけだが、時々妙に空腹を味わいたくなる時がある。
空腹を味わう、ひどい日本語だ。空腹に味なんかあるわけがない。どれだけ人をバカにすれば気が済むのか、書きながら少し腹が立ってきた。
だが、何かを食べているときのように、空腹も身体に感覚を促す。腹が減っているという感覚、何か食べたいというごく単純な感覚。腹部を中心にじんわりと身体に巡ってくる。妙な、とても奇妙な心地よさを、それに感じている。
半端な重たさを簡単に超えて巡ってくる感覚は、生きている身体を思わせてくれる。何もしていないが、何もできないが生きていると思わせてくれる。心地よい。とても、心地よい。とても、心地よく、そのまま、眠って、しまいたい。